日本版アルタガンマは出来るか?
日本版アルタガンマは出来るか?
日本には分野を問わず優れた匠の技を持つ小規模企業が沢山存在する。
資産性とか後継者不足でそれらの伝統や匠技の継承が問題にもなっている。
この点に注目した東洋経済ONLINEの記者が実に良くまとまったインタビュー記事を投稿した。
インタビューをした相手は大坂・関西万博でイタリア館を展開しているアルタガンマ財団のマッテオ・ルネッリ会長だ。
フランスにエルメス、カルティエ、ルイ・ヴィトン等トップ100社以上の有名ブランド企業が加盟して、豊かさとは何かといった議論を続けているコルベール委員会があるが、
アルタガンマはイタリア版コルベール委員会で個々の加盟企業の規模が小さく、日本の産業構造に近いらしい。
ここからはアルタガンマ財団会長のインタビュー記事を掲載するので、よく読んでもらい、出来るだけ早い時期に日本版アルタガンマを作り上げる人物または企業が出てきて欲しいと期待する。
中小企業の生産性を高めることが大命題であると公言している日本の政治もこの支援策は
絶対に必要である。
自分が若ければ是非中核組織の一員として活動したいと思う程だが、既に年を取り過ぎているのでもっと実行力のある人達に託すしかないのが残念ではある!
それでは東洋経済ONLINEの記者がまとめてくれた記事をご覧あれ!
より良く競争するために協力する
アルタガンマとは何か。ルネッリ氏は「イタリア版のコルベール委員会と考えてもらっていいです」と即答した。1992年にサント・ヴェルサーチ氏が9ブランドで創設したが、現在は「ファッション、デザイン、宝飾、ホスピタリティ、自動車、食品、ワインなど120の卓越したブランドが集う財団で、すべての企業が、伝統、職人技、地域性、創造性、革新性といった共通の価値観を重視しています」と言う。
会員リストには、ファッションではボッテガ・ヴェネタ、フェンディ、フェラガモ、グッチ、プラダなど、宝飾ではブルガリ、自動車ではアルファロメオ、フェラーリ、ランボルギーニなど誰もが知る有名ブランドが名を連ねる。
使命は「メイド・イン・イタリーの卓越性を世界に広め、産業競争力を高め、イタリアの成長に貢献すること」だ。これは大言壮語ではない。加盟120社は「イタリア産業の頂点を作っています」とルネッリ氏は胸を張る。加盟企業の「産業規模は1260億ユーロ。GDPの7.4%で、200万人の雇用を生み出し、収益の53%を輸出から得ており、国の成長に70%以上貢献しています」と言う。
アルタガンマは「同じ価値観、時に同じ顧客を持つ企業が共同で創造する場で『より良く競争するために協力する』がモットーです」とルネッリ氏。
「異業種間ではデザインウィークで加盟企業のワインを提供するなど日常的に連携を行っています。ファッションと自動車の協業もよくあります」と言う。同セクターの競合同士での連携には難しさがあるが、それでも共に行えることはあるという。
「(大阪・関西万博の)イタリア館にあるインスタレーションが一例でしょう。我々はイタリア館の中でイタリアの創造力を示しライフスタイルを推進したいと思っています。これは全加盟企業で協力できることです。なぜなら、協力して素晴らしい展示をすることで、最終的には日本そして世界中の消費者にメイド・イン・イタリーの卓越した創造物を紹介し、それを通してイタリアのライフスタイルを想起させることができるからです」と語る。つまり、各ブランドがイタリア文化と強く結びつくため、競合同士でも「イタリアンライフスタイル」をプロモートする部分では協力できるというわけだ。
日本ではイベントスポンサー探しで、1社入れると競合に声をかけにくい状況はないだろうか。そんな時、このような束ねる組織があれば、より大きな協力を得やすいのかもしれない。確かに日本にも経済同友会などの組織はあるが、どうも文化的発信や共同でのブランド戦略をしている印象は薄い。
アルタガンマの戦略が花開く、万博イタリア館
それではアルタガンマの企業は、万博で話題のイタリア館にどのように協力しているのかを詳しく聞いた。
「イタリア館ではイタリアの創造性の起源であり、イタリアの美の起源であり、イタリアの職人技の起源であるものを展示の中心に据えました」とルネッリ氏。その象徴がアルタガンマ・アイカサヒドゥラン(L’Icosaedro Altagamma、アルタガンマの正二十面体)という展示だ。レオナルド・ダ・ヴィンチがデザインし、数学者ルカ・パチョーリが描いた有名な幾何学構造物をクルミ材で作ったもので20面中6面がスクリーンとなり、会員120ブランドの「サヴォアフェール(匠の技)」を映像で紹介している。
「神聖比例(黄金比)」の調和原理やミケランジェロの「知に従う手」、レオナルドの「経験なくして知識なし」といったイタリア創造性の根幹思想が込められ、文化・歴史・哲学まで伝えようとした展示だという。
これだけではない。ソーシャルメディアで話題の同館で行われている「本物のアート作品の展示」も、アルタガンマのブランディングを後押ししている。
「例えば、ファルネーゼのアトラス像(古代ローマの彫刻)を見れば、人々はイタリアの石を素晴らしい芸術作品に変える職人技を感じてもらえるはずです。ヴェネツィアの布地やそれで作られた衣服を見れば、何世紀も前にヴェネツィアで素晴らしい織物や衣服が作られていたことがわかるでしょう。レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿は芸術と科学を融合させるイタリアの能力を象徴しています。また、カラヴァッジョの作品の美しさを見れば、それはイタリア人が何世紀にもわたって培ってきた美意識を感じるでしょう。
我々はこうした美に囲まれて暮らしているという点で明らかに幸運だと言えます。そしてそれが、我々のすべての才能や創造性を手助けしているのです。こうしたことこそが、おそらくイタリアの卓越性の真の起源であり、そうしたイタリアの創造性は今日のアルタガンマの企業がつくる最も洗練された製品にも通底していると、私は思っています。イタリア館全体がそのことを表現しているのです」
「卓越性」を追求し継承する
では、そんなアルタガンマ、発想の大元にもなっているフランスのコルベール委員会とはどんな違いがあるのか。ルネッリ氏は「我々は自らを表現するにあたり、(フランスがよく用いる)『ラグジュアリー』ではなく、『ハイエンド』や『卓越性(excellence)』という言葉を好んで使います。アルタガンマ自体、ハイグレードの意味です。アルタガンマが生み出すものには、その核心に本物のクオリティがなければなりません。その価値は、卓越した才能、磨き上げられた職人技、長きにわたり受け継がれる伝統と歴史、作り手たちの絶え間ない情熱、そして製品が生まれた土地そのものが持つ豊かな文化によって育まれるのです」と語る。
「真の『卓越した製品』は長持ちし、世代を超えて受け継がれます。ファストファッションとは対極です」。この考えは、修理しつつ家に住み、着物を継承する日本の伝統文化と通じる。しかし、高品質を支える「職人技」の継承はイタリアでも喫緊の課題だ。「将来、仕立て屋や木工職人、ブドウ園の働き手がいなくなるかもしれません」と危機感をあらわにする。
そこでアルタガンマは教育プロジェクトに注力。「Adotta una Scuola(学校支援プロジェクト)」では、ブランド企業が専門学校と提携し、実践的カリキュラム開発や職人による直接指導、インターンシップ機会を提供。約50校が参加中だ。「I Talenti del Fare(ものづくりの才能)」というプログラムでは製造業の重要性を啓発する。
今日の高級ブランドにとって無視できない「サステイナビリティ」に対しての考えも面白い。「真のサステイナビリティは、環境のことだけを考えるのではなく、企業が地域社会の発展に貢献することも重要です」と述べる。地域社会を大事にすることが、回り回って「環境の改善にも」つながるという考えで「アルタガンマ企業は地域と積極的な関係を持つ」と言う。実際、ルネッリ氏が経営するワインのフェッラーリ社もつねに「フェッラーリ・トレント」と地域名を冠している。
日本では、創業地との結びつきをブランド戦略に生かす企業は少ない。訪日客が日本人でも知らない地方を訪れ始めている今、日本の企業ももっと地域性を大事にしていいのかもしれない。
日本が価値観の近いイタリアから学ぶべきこと
親日家のルネッリ氏は日本とイタリアの相性の良さを熱く語る。「日本の品質、創造性、デザインは世界で高評価です。(中略)多くのイタリア人も日本文化を深く愛しています」と両国の交流に期待する。
両国は小規模独立系ブランドが多い点でも類似すると指摘。「フランスは巨大コングロマリットがほとんどを占めるが、イタリアは独立系が多い。だからアルタガンマや150万社もの中小・零細企業を束ねるコンファルティジャナート(イタリア手工業者及び小規模企業独立組織)のような組織が重要です」。これは中小規模の個性的なブランドが多い日本にも示唆に富む。
そもそも両国は職人技への敬意や美食へのこだわり、南北に長い国だからこそ生まれる地域ごとの特色の違いなど共通点が多く、それだけに学ぶことも多そうだが、日本の企業はどこか協業が苦手な印象がある。
「イタリア人も協力は苦手と言われています。それでも手を合わせることで素晴らしい成果が生まれるという理解を広めるのが重要だと思います。私自身、メイド・イン・イタリーのブランド2社が組むと魔法のようなエネルギーが生まれるのを何度も目にしてきました」とルネッリ氏。異業種連携に大きな可能性を感じているようだ。
日本には本物の高品質が、まだまだたくさん隠れている
ルネッリ氏は、最後に国家的ブランド戦略における観光の重要性についても語ってくれた。
「イタリアに来てライフスタイルや文化を知ることで製品理解が深まり、帰国後の購買につながることが多いです。観光は戦略的に重要で官民一体で取り組むべきです」
特に、オーバーツーリズムにならないように観光客の「量より質」に注目したハイエンドツーリズムの推進をアルタガンマは重視しているという。これもまた、局地的なオーバーツーリズムが問題化しつつある日本にとって、大いに参考になる視点だ。
日本政府観光局(JNTO)は旅行での消費額が100万円以上の人を「富裕旅行者」と定義しているが、日本はそうした層にも人気で、コロナ禍以降、京都東山には1泊10万円以上の高級ホテルが続々と開業している。日本の産品は、その奥深さや品質の高さで評価され、本物志向の富裕層に支持されている。 日本の産品は、しばしば伝統文化の歴史を含めた奥深さや、製品の品質の高さで評価を受けており、それを喜ぶ目の肥えた本物志向の富裕層顧客も少なくない。日本人が気がついていないだけで、日本には世界の人々を惹きつける本物の高品質が、まだまだたくさん隠れている。
記者のコメント!
それなのに、それをうまく世界に売るブランド戦略だけが欠如している──ルネッリ氏の話を聞いて、そんな気がした。
日本の豊かな文化、卓越した職人技、現代的感性をどう戦略的に世界へ伝え、継続させるか。アルタガンマの30年強の歩みはヒントに満ちている。
(M・J)