漆(うるし)の話 その1
漆(うるし)の話 その1
漆とはウルシ科のウルシノキやブラックツリーから採取した樹液を加工した、ウルシオールを主成分とする天然樹脂塗料です。日本と中国産樹液はウルシオール、台湾とベトナムはラッコール、タイやミャンマーはチチオールを主成分としていて、多少の違いがあります。
ウルシの生息域は東アジアから南アジアに限られており、漆器は当地域の特産品と言えます。
成分的に見ると、漆は油中水球型のエマルション(分散質と分散媒が共に液体である分散系溶液)で、有機溶媒に可溶な成分と水に可溶な成分、さらにどちらにも不溶な成分とに分けることができます。3つの成分が合体している不思議な塗料と言えるでしょう。
漆は硬化するのが一つの特徴ですが、主に、空気中の水蒸気が持つ酸素が、生漆に含まれる酵素(ラッカーゼ)の触媒作用によって常温で重合する酵素酸化で硬化します。
大変デリケートな一面もあって、紫外線によって劣化するし、液体の状態で加熱すると酵素が失活するため固まらなくなります。
日本国内の漆の生産量は、需要量の2%程度でしかなく、残りは中国からの輸入で賄われています。その輸入量は1990年前後が300トン以上であったのに対し、2007年以降は100トンを切る傾向にあります。日本国内の生産地は北海道から高知県にまでまたがっていますが、生産量の70%は浄法寺漆に代表される岩手県産です。漆生産の場では、漆かき職人が減少し続けており、今後、文化財の修復に必要な国内産漆の確保に支障が生じることから後継者の育成が課題となっています。
製品の代表格である漆器(しっき)は、木や紙などに漆(うるし)を塗り重ねて作る工芸品です。日常品から高級品、食器、根付等まで様々な用途があります。狭義には「漆を塗った食器」の意味ですが、それに捉われていません。漆を表面に塗ることで器物は格段に長持ちするので、用途は広がります。
加工された素地(きじ:素材が木の場合には「木地」)に下地工程、塗り工程と、細かく挙げると30から40になる手順を経て漆器に仕上げていきます。この工程は漆工と言われそれぞれに名前があり、生産地別で考え出された漆工も合わせると多岐にわたります。
利用される素地には、よく乾燥された木材、竹、紙、金属などが良く使われますが、現代では合成樹脂も使われています。更に、漆にセルロースナノファイバー(CNF)を混ぜて光沢や強度を高める技術が開発されるなど、時代とともに進化しているのです!