カテゴリ: 科学、自然
公開日:2020年02月06日(木)
スピッツァー・お役目ご苦労様でした!
スピッツァーとはNASAの赤外線天文衛星です。様々な波長の電磁波で宇宙を観測する衛星群「グレート・オブザーバトリーズ」の1機として2003年8月に打ち上げられました。それ以来、16年間に亘り数多くの成果を挙げてきましたが、先月31日に機体がセーフモードに切り替えられ、全ての観測活動ミッションを終了しました。
スピッツァーは地球から距離を置いて追いかけるような位置関係で太陽の周りを公転し、地球から出る熱放射の影響を避けることができるので、より口径の大きな地上望遠鏡を上回る感度を持っていました。さらに、従来の赤外線天文衛星と比べてはるかに暗い天体を観測でき、より遠方の宇宙の姿を私たちに届けてくれたのです。
赤外線観測では、望遠鏡や装置自身が出す赤外線がノイズとなって観測の妨げになるのを防ぐために、望遠鏡や観測装置を極低温に冷却する必要があります。スピッツァーは液体ヘリウムを冷媒に用いていますが、液体ヘリウムはきわめて蒸発しやすく、搭載されている液体ヘリウムがすべて失われた時点で、本来の性能での運用は終了となるのです。
スピッツァーの16年間に亘る観測活動の軌跡は素晴らしいものでした。搭載されている3種類の観測装置のうち、赤外線分光計と多波長撮像光度計のヘリウムが2009年に尽きたため、初期観測ミッションはここで終了となりました。この時点でスピッツァーミッションは成功したと判断されたのですが、運用チームは最後に残された観測装置である赤外線アレイカメラの観測波長4つのうち2つを使って、延長ミッションを行うことにしたのです。当初想定されていたミッション期間を大幅に超えて、スピッツァーはさらに10年半もの間、画期的な成果を挙げ続けました。
次世代の赤外線宇宙望遠鏡であるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げを見越して、スピッツァーミッションは2018年で終了することがいったん決定されたのですが、その後ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げが延期となったため、スピッツァーの運用は今年まで継続されることになったのです。
スピッツァーは、恒星や惑星の形成、初期宇宙から今日に至る銀河の進化、恒星間塵の組成など、天文学の様々な分野の研究に貢献してきました。2009年には土星を取り巻く未知の巨大な環を発見しましたし、2014年には、できたばかりの惑星系で小惑星同士が衝突した証拠を検出して、こうした天体衝突が太陽系の形成初期にも頻繁に起こり、惑星形成に重要な役割を果たした可能性があることを示しました。
延長ミッションの2016年には、ハッブル宇宙望遠鏡との共同観測によって、これまでに検出された中で最も遠い銀河の画像が得られました。さらに、2017年には、みずがめ座の方向約40光年の距離にある太陽系外惑星の赤色矮星「TRAPPIST-1」の周りに、下記画像の想像画像のような7個の地球サイズの惑星を発見したのです。これは、スピッツァーの功績として、最も広く知られた成果の一つです。
2015年、スピッツァーのミッション12周年を祝って下記のような過去の撮影画像が公開されました。
16年間のミッション終了に際し、NASA副長官のThomas Zurbuchen氏が、次のメッセージをスピッツァーに贈られたのが印象的ではありませんか!
「スピッツァーは宇宙についての完全に新しい視点を私たちにもたらしてくれました。宇宙のしくみを理解し、私たち人類の起源や、私たちは宇宙の中で孤独な存在なのか、といった様々な問いを投げかける上で、私たちを何ステップも先へと前進させました。スピッツァーによって、さらに研究を要する重要で新しい疑問や興味深い天体が見つかり、将来の研究の道筋が示されました。スピッツァーはミッションの終了後も長きにわたって、科学に計り知れないインパクトを与えることでしょう。」