ホーキング博士と「マルチヴァース(多元的宇宙)」
ホーキング博士と「マルチヴァース(多元的宇宙)」
3月に亡くなられた宇宙物理学者のホーキング博士は、1970年にペンローズ博士と共同で宇宙の始まりに関する論文を発表しました。当時、宇宙の始まりを研究する根拠は「一般相対性理論」でしたが、それに基づいて過去に遡ると宇宙の始まりには重力や密度が無限大の状態になっていたはずで、一般相対性理論が破綻してしまう「特異点」が存在せざるを得ないことを証明したのです。しかし、その時点では宇宙がどの様に始まるのかという特異点定理が欠けていました。これは一般相対性理論だけでは解決できないテーマで、ホーキング博士はそれに量子論を組み入れたのです。特異点定理を研究するために、彼は現宇宙の始まる前の状態まで思いを巡らし、1983年にハートル博士と共同で「ハートル・ホーキングの無境界仮説」を提唱しました。それによると、そこは空間や時間の概念自体が暖味になってしまう場だそうです。特異点が原子レベルの状態だったとすれば、粒子のようにも波のようにも振る舞うことが出来るという量子論的な概念です。ホーキング博士の研究はさらに続きます。亡くなる10日前に公開されていた「A Smooth Exit from Eternal Inflation?(永久インフレーションからのスムーズな離脱?)はハートグ博士との共同論文として公開されました。二人は、「ハートル・ホーキングの無境界仮説」についてさらに研究を重ねた結果、無境界仮説のモデルは一つの宇宙だけではなく、異なる物理定数を持つ無数の宇宙を作り出してしまう(永久インフレーションと呼ばれる現象)ことに気が付きました。そこから彼らはマルチヴァース(多元的宇宙)の可能性を、検証可能な科学的フレームワークに変換できるような方法の開発に努め最後の論文に至ったのです。この論文は無境界仮説に量子論を加え、宇宙が量子論の支配するインフレーションから誕生し、そのあと宇宙の進化と共に一般性相対理論が出現することを描写しているそうです。宇宙の量子起源を証明するのはビッグバンからの重力波で、地球では検出できないのですが、いつか宇宙での重力波実験ができればこれを直接検出できるかもしれないそうです。まさにホーキング博士が言い遺しているように「人間の努力には境界がない」ですね!