明るく楽しく補聴器を着ける時代の到来は?
明るく楽しく補聴器を着ける時代の到来は?
日本補聴器工業会が主催して日本の補聴器事情に関する調査を昨年実施し、「JapanTrak2018」という報告書が公開されました。同団体のホームページに掲載されていますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。この調査は2012年と2015年にも実施されていて今回が3回目となります。特に2015年から2018年の間に、補聴器業界では沢山の前向きな動きがありましたので、2015年と比較したときに、実質的な良い変化が出てきているのではと期待していました。この3年間の前向きな動きは主に次の通りです。
① テクノエイドが主催する認定補聴器技能者の数が3500人を超えていること
② 日本耳鼻咽喉科学会が推進している補聴器相談医が4000人を超えていること
③ 補聴器販売店協会が厚生労働省の支援を受けて、補聴器販売技能者研修会を推進していること
④ 補聴器メーカー各社の製品性能が飛躍的に進化し、さらにIoTとの関連など、利便性が広がっていること
⑤ 軽度・中等度難聴児のための補聴器購入費等助成事業が全都道府県で実施され始めたこと
⑥ 軽度・中等度難聴で高齢者補聴器購入費助成事業が一部の自治体で始まったこと
⑦ 平成30年度から、「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」の活用により、医療費控除を受けられることが、厚生労働省、財務省によって承認されたこと
⑧ 補聴器販売店の自店ホームページが拡大し、インターネット経由補聴器情報を得ることが飛躍的に拡大したこと
⑨ 歌手が耳あな型補聴器と同じ形状のイヤモニターを着けるのが流行し、見た目にも補聴器の違和感が減少していること
この様な現状下、本サイトでは「明るく楽しく補聴器を着ける時代の到来」を目指し、2018年と2015年の数値を比較分析したうえで、一般の方々に知っておいて欲しい項目を抜粋して紹介することにしました。
○ 難聴者率:
全体では11.3%で2015年と変化はありません。全人口が1億2600万人とすると1424万人が難聴者になります。
○ 補聴器所有者率:
2015年は13.5%でしたが、2018年は14.4%と増えています。これは上記に列記した様々な動きが貢献し、比較的に若い世代に補聴器が浸透し始めていることを示しているのではないでしょうか?しかしながら、イギリスの48%、ドイツの37%、フランスの41%、米国の30%などと比べると遥かに低いレベルです。この原因は主に福祉制度、言語、感性、販売店の水準などの違いによるものと思われます。
○ 補聴器の全体的満足度:
2015年は39%でしたが、2018年は38%でほとんど変わっていません。補聴器の性能は3年間でかなり進化していますから、満足度が変わらないという結果には納得がいきません。この満足度についても欧米に差をつけられています。イギリスは74%、ドイツは76%、フランスは82%です。17年間各地の補聴器販売店訪問から、日本には知識も経験も豊富な方たちが沢山おられるのが分かっているので、販売水準で劣っているとは決して思えないので不思議です。
○ 難聴度による補聴器所有率:
障害者総合支援法の対象となる高度・重度難聴と、対象にならない軽度・中等度難聴の2つに分けて比較をします。軽度・中等度難聴者は2015年が88%で2018年は94.9%になります。高度・重度難聴者は2015年が全体の12%で2018年は5.1%でした。調査に参加された方の人数が2015年と2018年で異なるため、この差はあまり問題にならないと思います。補聴器の保有率を見てみると、高度・重度難聴の場合2015年が72.5%で2018年が61%です。軽度・中等度難聴の場合2015年が7.2%で2018年は9.1%でした。これらのデータで注目したいには2つです。1つは軽度・中等度難聴の比率が圧倒的に多いのに所有率が10%以下と圧倒的に低いことです。日本人は欧米人に比べ、高度難聴になってから補聴器を装用する方が多いのですが、音は聞こえるけれど言葉の理解がなかなか改善しないケースが多々あります。軽度・中等度難聴の時から、言葉の理解をつかさどる脳神経に音声を届けて、脳神経を常に活性化しておく必要があることを認識してください。2つ目は、数字はまだ少ないですが、軽度・中等度難聴者の補聴器所有率が増えたことです。上記に掲載した様々な効果を表している良い例だと思います。この9.1%が20%程度になると「明るく楽しく補聴器を着ける時代」の到来と言えるのではないでしょうか?
○ 補聴器非所有者に対する耳鼻科医師と販売店の対応:
補聴器非所有者が耳鼻科医師に補聴器装用の相談に行ったときに、2015年は88%の人が「特に行動する必要はない」と言われています。2018年では89%でした。行動するという言葉の意味が補聴器を着ける必要がないという意味であれば、これは悲しいことだと思います。一方、販売店の場合、2015年は23%が「補聴器を購入する必要はない」と言われています。2018年は28%に増えました。これはとても良い傾向で、販売店が営利目的ではなく、その方の状態を正確に把握し、真摯に対応していることの表れだと思われます。信頼できる販売店が増えているのではないでしょうか?
○ 仕事での補聴器装用効果:
仕事上で補聴器をつけて役に立っているかを調べたところ、程度の差はあるにしても、2015年は90%の方が役に立っていると回投し、2018年はそれが93%になりました。補聴器の進化と販売店の調整力が貢献しているデータだと思います。
○ 両耳装用率と効果:
両耳装用率は2015年が44%で2018年が53%です。本来あるべき方向に進んでいるのではないでしょうか。2018年だけのデータですが、両耳難聴で両耳装用の満足度は42%ですが片耳だけの装用だと25%まで下がります。これでも両耳装用の優勢性がわかります。
○ 補聴器の満足度に影響を与える因子:
2018年 2015年
音の豊かさ又は忠実な再現: 1位 1位
トーンと音の明瞭さ: 2位 3位
自然な音: 3位 1位
大きな音の時の快適さ: 4位 5位
製品の信頼度: 4位 4位
性能と金額のつり合い: 6位 6位
全体的な快適さ: 6位 6位
ハウリング抑制: 8位 8位
アフターサービスの質: 9位 9位
調整期間中のサービスの質: 10位
プロフェッショナリズム: 10位
多少の変動はありますが影響を与える因子の内容は変わっていません。販売店を訪れるときは、販売店の方からこれらの点についてよく説明を聞くべきだと思います。
○ 聞き取りが必要とされる場面10傑:
1位:電話での会話
2位:家族との団欒
3位:1対1での会話
4位:少人数での会話
5位:テレビ観賞
6位:多人数での会話
7位:騒音下での聞こえ具合
8位:店内での買い物の時
9位:子供と話すとき
10位:仕事場
これら10傑は項目も順位も2015年と2018年では変動がありません。ご自身が補聴器を必要としてもいる理由は何かこの中で選び、購入擦る際はそのことをよく販売店の方に伝えることが大切です。
○ 分析後の見解:
今回のデータを分析した限り、全体的に良い方向に進んでいることは読み取れますが、「楽しく明るく補聴器を着ける時代の到来」にはまだ少し時間がかかるようです。